【新演出】『夜ヒカル鶴の仮面』

多和田葉子さんが1994年に初めて書いた戯曲『夜ヒカル鶴の仮面』。2017年から2年に1回のペースで取り組んできた上演、今回が4回目の取り組みになりました。

この戯曲との付き合いはとても不思議で、最初は2017年学芸大学の演劇ゼミでの試演会。その後、2019年の芸小ホールでのリーディング上演、2021年京都芸術大学での劇場実験+フォーラム。そして、4回目となる今回は、ついに”市民劇”としての上演を行いました。

”ついに”というのは、多和田さんの戯曲はやはりどこか市民劇を要請しているような気がしていて、ただ、『夜ヒカル鶴の仮面』というのは本当に上演するのがとても難しい戯曲なので、公募出演者・市民という形での上演が難しいのではないかと思っていたのです。

2021年の京都での劇場実験を機に、またこの時は本当はアジア多言語版として香港・マレーシア・タイからアーティストを招いての上演を計画していたのですが、新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、海外アーティストを招へいしてのアーティスト・イン・レジデンスが困難に。そのため、急遽形を変えて日本語話者の俳優4名による上演と、アジアのアーティスト12人へのオンラインインタビューをまとめる形で上演をしたのでした。これが良かった。ここでの読み込みを前提にして、今回、”市民”に開く形での上演を決心できました。

くにたち市民芸術小ホールとは、くにたちオペラ『あの町は今日もお祭り』や、『動物たちのバベル』という国立市民×多和田葉子の企画を継続して行ってきていることもあり、”市民劇”の土壌が育ってきたことも感じられる今回の『夜ヒカル鶴の仮面』上演でした。

『夜ヒカル鶴の仮面』はお通夜の1晩の劇。妹、弟、通訳、隣人、そして姉の「死体」の5役が書かれている1幕もののお芝居です。これを今回は16名の公募出演者の方と6つのシークエンスに区切り役をバトンタッチしていく形で上演しました。美術はハコが1つだけ。これが、棺桶になり、冷蔵庫になり、電話ボックスになり、食卓になり。インチキマジックのような演出、考えていてもやっていてもとても楽しかったです。インチキって、なんかいいんだ。

16人の出演者。初めて演劇に取り組む人もいれば、久しぶりに舞台に帰ってきたよという人まで様々。なんですが、初日の顔合わせですでに「大きな家族(遠い親戚)」のような雰囲気を醸し出していて、「弔いの劇」です、と言って集まったメンバーだったからなのか、しかし稽古初日から「お通夜」の準備のような不思議な感覚でした。私がいなくても自分たちでゲームやって稽古できて、というなんだか素晴らしいメンバーで、このチームでこの劇に取り組めたことに本当に感謝しています。

稽古初期から、この稽古場はとても”mature”だ、と思っていて。それはどうしてなのか、理由はよくわからないのですが、いろんな年代やバックグラウンドの方々が集まり、きちんと対話をしながら創作に真摯に向き合う、本当に素晴らしい稽古場だったと思います。

みんなで推しのウチワをつくるノリで仮面をつくったのもとても楽しかった。仮面が蟷螂流しよろしく劇場の空に上がっていく様は何度みても圧巻でした。

通常、”市民劇”というのは儚いもので、その1回のために企画され、上演されることが多いのですが、この『夜ヒカル鶴の仮面』についてはまたこの企画で是非上演したい作品です。「まちクラ」や『せんをかく』やその他にもたくさん続けてきた”市民劇”のひとつめのフェイズが完成したように思っています。さて、次は何だ!

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【上演記録】

多和田葉子 複数の私 vol.6

『夜ヒカル鶴の仮面』

2023年9月22日(金) 1回公演

作:多和田葉子

演出・美術:川口智子

照明:横原由祐

演出助手:斎藤明仁、永田那由多

出演:青山健二、内田颯太、丘街ココ、空、垣野弘絵、國丸敬太、久保田正美、武田陽子、棚田真理子、中澤優介、中嶋祥子、成松こだま、前田奈々、森口ありあ、柳澤あゆみ

企画・制作:公益財団法人くにたち文化・スポーツ振興財団

写真:遠藤晶

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◎当日パンフレットより◎

偽物の家族と過ごした夏でした。

この偽物の家族は勇ましく優しく互いのプレイを楽しみ助け合いその試合の勝利をつかもうとする何かの競技のチームメイトのようでした。今夜、私たちは手に汗握ってプレイフィールドで繰り広げられるその行為の行方を見つめることになるでしょう、彼らが挑んでいるのは競技ではなく演劇/劇場だけれども。

多和田葉子さんの戯曲『夜ヒカル鶴の仮面』(1993年グラーツにて初演)とともに、偽物の家族とともに、今夜劇場に出かけてくださったみなさんとともに、さあ、「この夜」を始めましょう。

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制作ドキュメント

多和田/ミュラー・プロジェクト:TMPホームページ

2021年10月京都芸術大学「劇場実験」上演+フォーラムドキュメント

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