英国滞在日記(前半)

2020年3月東京&北九州、5月イギリスにて上演する『4.48 PSYCHOSIS』のクリエイション記⑴

Day 01

2019年8月7日。今日のタスクは移動。

移動メンバーは私を含めて5人。「Cleansed」シリーズや「絶対的」で一緒に作業をしてきた鈴木光介と滝本直子。そこに今回初作業となる小野友輔と中西星羅。5人が顔を合わせるのは7月渋谷での旅打ち合わせの1回。それでも、ここまでの企画の下準備やオーディションなどのせいか、ふわっと旅メンバー感があるのはなんだか新鮮。

それで、移動。

忘れもしない2013年8月の上海経由香港便の移動。1週間にワークショップと発表をつめこんだ最初の香港・卓翔との「絶対的」プロジェクトを襲ったのは、台風による香港空港閉鎖。香港入りしたのは日本を出発してから40時間後。香港に行けばどうにか始まるプロジェクトで、「行けない」という体験は強烈だった。なぜか空港から出されてしまった上海の、半分工事中のホテルにいる自分の脳の沸騰状態をよく覚えてる。細部まで思い出しても本当にすべてがヘンテコで、今だったらその状況を楽しめるようになっている気もする。空港で座り込み、振替便のチケットをなかなか出してもらえない中でできた「対話がない108の理由」は、その後の絶対的プロジェクトの顔とも言える歌になった。とか言って、当時なんとなく良かったような落としどころはなくて、とにかく最悪の状況で、最悪の状態に落ちてたのであって、思い出すとヘンテコで愛おしいなとやっと今だから言えるのです。

そんなわけで、今回のイギリスまでの移動はうまくいくことを期待しないように準備。お盆のこの時期の渡英。予算を考えフライトはヴェトナム航空、羽田→ハノイ→ロンドン。途中ハノイでのトランジットを含む23時間コース。市内までの移動を考えれば本当に1日がかりなわけで、ちなみに、今21時間くらいが経過した機上でこれを書いています。だから、今日中に移動が完了するのかどうか、期待せずに。 (写真はハノイ空港のフォー。)

Day 02

8月8日。現地時間の朝7時過ぎ、ロンドンヒースロー空港に到着。空港のカフェでコーヒー。交代で身支度を整えた後、市内へ。市内へは、TFLができてからコスパよくパディントンまで行けるようになってお気に入り。移動中、光介さん滝本さんと、「スムーズだね」と。やっぱり2人にもあの香港までの道のりは忘れがたい体験なのかな。(そうに違いない。)

最初の2日はパディントンのWilson's Houseに滞在。Imperial Collegeの学生寮で、夏休み期間中は一般の人が泊まれるホステルになる。390人の学生が暮らす横長の4階建ての寮で、受付から一番遠い38番地の部屋までいったい何枚の扉を押したり引いたりするやら(数えたら25扉あった)。でも、さすがの学生寮。部屋には勉強机があるので快適。

ひとまずスーツケースを預けて、本日のランチどころBorough Market(バラマーケット)へ。「イギリスってご飯美味しくないんですよね?」という不安を払拭するマーケット飯。ロンドン在住で、この企画のスタッフでもあるコンテンポラリー・ジュエリー・デザイナーの角田美和も加わり、ひとまずの到着を祝って乾杯(下の写真を参照のこと)。長時間の移動と睡眠不足のカラダに染み入るワインと美味しい食事、それからロンドンの陽射し。カラッとしてて紫外線強め。晴れれて美しい日。食事後、テムズ川沿いに遠目に観光をしながら、ミレニアムブリッジを渡り、さらにバスに乗ってセントラルへ。Covent Garden周辺をぶらつき16時には解散。買い物に行く組、宿に帰る組。8時間時差を考えれば、日本はもう夜中。そりゃ眠いよね。

夜、美和と2人、イギリスの俳優、伊川東吾さんと中華街でご飯。広東料理、美味。1年と数カ月ぶりに会う東吾さんと近況報告。ソーホーの素敵カフェで、美味しいコーヒーとケーキをいただきながら、止まらないお喋り。まだまだ話していたいけれど、台詞を覚えなきゃという東吾さんと別れ、美和とはまた明日。明日は劇場を訪問。この旅の目的も、少しずつ書きたいけれど、今日はこの辺で。パディントンの夜、静かだなあ。

Day 03

昨晩から雨の降りだしたロンドン。朝は少ししっとり。駅でコーヒーとサンドウィッチを買って、午前中は部屋で作業。滞在製作のこういう時間は、いつもの生活とも違う集中があって好き。

さて、昼から劇場の見学に。ロンドンの街の中での劇場の存在感。閉まっているときはずっしりと存在感があって、人が集まると華やかにお化粧してその存在感が増す。劇場に来る人、劇場に来ない人、劇場でつくる人、それぞれが人間として劇場に関わっているのがわかる。温度。ロンドンの劇場のひとつの形。それぞれの色があるロンドンの劇場。

見学が終わって、Notting HillのPortbello Marketへ。「ノッティング・ヒルの恋人」で有名なあれ、ですね。ロンドンで美味しいもの食べようと思ったら、まずはマーケットに行けば間違いなし。少し遅めのランチをしながら、残りの時間をどう過ごすか相談。明日にはHebden Bridgeに移動だから。

結局、ベタな大英博物館がいいだろうということになり、西から東にひたすらバスで向かうことに。途中、マーケット通りの中にある公衆トイレに寄る。このトイレ、なんか感覚がことごとくズレてる不思議なトイレ。無料だけど、トイレの方に主導権がある。どこに行けばトイレに困らないかというのが、その街を知っているかどうか、親近感があるかどうか、という指標な気がする。でも、このトイレはなんというか、本当にトイレの方に主権があるのね。

大英博物館からは自由行動で。とにかくすごい人で歩くのもやっと。早々に切り上げて滝本さんと近くのパブへ。まだ夕方なので、ビールをレモネードで割ったシャンディを注文。外で飲んでいると大粒の嵐! でも、続くのは数分。今年は異常に暑かったり、かと思ったら雨が降り続いたり、とイギリスも異常気象だとか。まあ、でも、本当に晴れて、風が吹いて、雨が降って忙しい天気。シャワーのあとには大きな虹。

その後、星羅と合流してシェイクスピア・グローブ座へ。ここ数回ロンドンに来ると必ず寄ってしまう劇場。評判がいいんだよね。今回は『お気に召すまま』。正直、プロダクション自体はややマンネリ。また見たい!という出来ではなかったのですが、耳の聞こえない2人の俳優さんの手話を超えたことば=体のお芝居には惹きつけられた。相手役を務める人が観客や他の役のために通訳をしたり、彼の台詞も手話でやっていたり、というのも良かった。聞こえない台詞を見ている観客の集中力がひとつあがっている。グローブ座は観光スポットみたいなものだけど、やっぱり観客の楽しみ方があるなぁと思ったり。

23時直前の帰り道、中華の包屋さんに駆け込み、小さい包とビール。美味しかった。写真撮り忘れた。パディントンのオフライセンスで小さい白ワインを買って滝本さんと部屋で1杯だけ飲む。あのお店はなんで23時過ぎてもお酒を売っているんだろう。明日の朝は早くから移動。起きられるかちょっと心配。

Day04

ロンドンから今回の滞在先ヘブデンブリッジへ移動。7時半、宿を後にし、パディントンから列車駅のキングスクロス(ハリーポッターで有名な!)へ。乗る予定の地下鉄のラインが混乱しているということで、急遽バスで向かうことに。それでも8時過ぎには駅に到着し、“バッチリ!”と思ったら、電光掲示板に「CANCELLED」の文字。昨日から電力制限がかかっていて、一部の電車が運休しているとか?! 8:33出発の予定を2本後のヨーク行きに変更して、なんとか乗車。キャンセル続きで全席自由席とり合戦となった車内。スーツケースを椅子代わりにして約2時間のヨークまでの旅。

ヨークからリーズ経由でヘブデンブリッジに向かう。乗継便を2本送って(乗り換えの混雑と、さらなる遅延)、ようやくブラックプール・ノース行の電車に乗り込む。ヘブデンブリッジまでは直行のはずが、今度はリーズで降ろされて列車の移動。最後にはみんなが手作りのトランプを作成しだした。

宿についたのは予定より2時間遅れの午後2時。なんだかんだで6時間半の旅。お疲れさまでした。今日は到着できない可能性もなくはなかったので、本当に良かった。

4月の下見から2回目となるヘブデンブリッジ。予想よりも寒い。雨も風も吹き荒れていたので今日は町の写真は撮れなかったけど、運河と丘に恵まれた自然豊かな土地です。とても小さな町だけれど、文化的な特徴がたくさんあるようで、有名なライブハウス、LGBTのフェスティバル(今年は7月に終了)、BBC作成のドラマ『Happy Valley』のロケ地にもなっているとか。

Air BnBで予約した一軒家。家主さんがとても素敵な方々で、お部屋もとてもかわいい。地上階のリビングで、みなで机を囲み今後の相談や、ご飯担当の順番決めなど。落ち着いた10日間が送れそうな気がする。

そして、いよいよ、明日からのスタジオでのリハーサルにむけて、作曲家で出演もする鈴木光介さんと打ち合わせ。サラ・ケインの『4.48 PSYCHOSIS』。まだ見ぬ舞台を目指してやることは大量にある。その中で、今回の滞在クリエイションの目標をどこに持ち、何を大事にして進めていくのか、それを確信できるような時間にするための準備。

打ち合わせ終わり、メンバーでパブへ。やっと英国料理を堪能。いや、本当に美味しかった。隣のテーブルのご夫婦×2組。ホリデーに来ていた彼らのうちのおひとりがシンガポールの出身ということで話しかけられる。アジア人が非常に珍しいのです。来年5月、このヘブデンブリッジ近くのハリファックスの劇場でも上演したいと思っているけど、彼らはハリファックスの近くに住んでいるらしい。ぜひ、見に行きたい(覚えていれば!(笑))と言ってもらえて素直に嬉しかった。さてと、明日はいよいよドラマターグのニーナ・ケインも合流!

Day 05

朝10時、丘の上のThe Birchcliff Centre(バーチクリフ・センター)へ。今回のひとつ目のリハーサル場所。急な坂道を登っていくと、昔、教会だった建物。今はその建物を遺産として守りながら、アートや教育のために使われている施設。入口の柵の向こうにドアを覗き込む人の影。ニーナ・ケインだ! 前回会ったのは4月の下見の時なので、そんなに久しぶりなわけでもないけれど(しかも、この間、ずっとメールのやりとりをしているけれど)、やっぱり少し久しぶりな気がする。

ニーナが覗き込む先には暗い室内。鍵が開いてない! 夏休みだし、またか~、と苦笑しているそばからニーナがセンターの人に電話をしてくれる。今日の予約が伝達されていなかったということで、スタッフの方が開けに来てくれるまで30分くらいかかると。30分あるなら、温かいコーヒーでも飲みながら待ちたいくらい寒いのだけど、丘を下ってもう一度のぼってくるのも大変なので、ベランダで立ったまま自己紹介。

サラ・ケインの研究者であるニーナ・ケインとの出会いは2012年。たまたま日本に旅行に来ていたニーナは、日本でサラ・ケイン『Cleansed』の上演準備をしていた私たちの稽古場に遊びに来てくれた。水天宮ピットでの通しを観た週末に、友達2人を連れて渋谷のspace EDGEでの本番も見てくれた。ニーナ自身も2009年から『Cleansed』に取り組んでいたこと(私は2010年~)、いろいろな都市で見た『Cleansed』よりも、私たちの上演『洗い清められ』を見てBestな上演だと言ってくれたりとかで、いつか、一緒にサラ・ケインの上演に取り組みたいねと夢のように言っていたのでした。

2017年、いよいよ『4.48 PSYCHOSIS』のオペラ版に取り掛かろうと光介さんと決めた後、ニーナ・ケインに連絡し、ドラマターグとしてプロダクションに参加をお願いした。即答でYES。そこからもう2年。2018年2月の横浜・若葉町ウォーフでのレジデンス(ニーナ、滝本さん、私の3人)からさらに今回の英国滞在へ。息の長い協働作業が続いている。

そのニーナが今回私たちのために選んだ滞在場所が、ヘブデンブリッジ。Hebdenというのは固有名詞かな。ちょっとわからないけど、とにかく橋と川の小さな町で、アンチ・スーパーマーケットの個人商店が並ぶ面白い場所。

改めてニーナ・ケインに今回の滞在のアレンジのお礼をする。今日のバーチクリフ・センターもニーナ・ケインが見つけてくれた場所。しかし、こんな小さな町なのに、劇場もあれば、アートセンターもあり、英国有数のライブハウス、パブは複数、かわいい雑貨屋やセカンドハンドショップもあって、本当に飽きそうにない。ちょっと変わった町なのだ。

とかなんとか話しているうちに、スタッフの人が来て(クリスだったっけな)、センターの鍵を開けてくれた。教会の客席(と呼ぶのかな?)の椅子の一部を取っ払い床をマーリーにしてスタジオ化されたスペース。贅沢です。

リハーサルとしては記念すべき初日。最初の5日間はワークショップを中心に。焦らずにゆっくりと関係性を積み上げるところから。出演者がリードするワークショップ1発目は、中西星羅さん。ニューヨークでミュージカルを学んでいた星羅が、アレキサンダーテクニックを意識したラジオ体操を教えてくれる。そっか、人間の体の中はやっぱり液体でできているんだなぁと思ったり。

10時~13時の後半は、光介さんが事前に準備してくれたデモ曲を用いたワーク。何度も言うけれど、とにかくコンテンポラリー・パンク・オペラって、どうやってつくるのか、それは、私も光介さんもわからないわけで。歌とお芝居の即興性の間の可能性を探すために、出演者たちにも手伝ってもらいながら、この滞在の中で作り方を開発していきたい。

午前中のワークを終え、家でご飯。ランチは交代でつくることにした。じゃんけんで負けて、今日が私の番。昨日仕込んだ鳥と卵の醤油煮と、ご飯。ご飯はジャスミン米。炊飯器は当然ないので、鍋で炊いたけど、いまひとつで悔しい。米酢はなくて白ワインヴィネガーで炊いたので鳥も心配だったけど、こっちは大丈夫だった。

昼食の後は、ニーナ・ケインのファシリテートにバトンタッチして発音のレッスン。英語での上演に向けて、発音の練習をするとともに、サラ・ケインの書いたテキストをジワリジワリと読み進めていく。これ最高に贅沢な時間! 4時半頃、ようやく今日のワークは終わり。それにしても、Air BnBの一軒借りのおかげで、こういう時間にも落ち着いて場所が使えるのはとても良かった。

6時、滝本さんと2人、町を散歩。日曜日なので、パブと飲食店以外閉まっている。飲食店も夕方で閉じていくところがたくさん。駅の方まで散歩して、運河のほとりを歩いていると、ちょうど水門を開けてボートハウスを動かしている親子に会った。水門の機能を驚いて観察していると、お父さんの方が声をかけてくれる。4日間のホリデー、初めてボートハウスで旅に出ると。出発を見送ると最後は10歳くらいかな? の息子も手を振ってくれた。町の素敵なところとまた出会った。

スーパーで食材を手に入れて、家に帰ってご飯。思わず食べすぎ~、食後、リビングで今この日記を書いています。今日もいろんなことが起きて、記事が長くなってしまいました。同じ部屋では光介さんが次のシーンの作曲中。他の3人も各々明日のワークの準備をしているかな。まさに合宿ですね。

Day 06

今日のリハーサルは、同じバーチクリフセンターのヨガルーム。昨日、ニーナと話していたのだけど、ヘブデンブリッジの町のちょっと変わっているところとしては、町の中心のスクエア(広場)に普通はある教会が、ここにはない。教会はひとつあるけれど、存在感があまりない。そして、このバーチクリフセンターは教会としての役目を終え(しかも結構な急こう配の丘の上にあるので、修業感があるけど)、今はYOGAルームに別の神様がたくさん鎮座している。この小さな町の人口は4,500人くらい(2015年の統計)。

小野友輔さんのワークショップからスタート。2016年から上演していたエリック・サティの音楽劇『メドゥーサの罠』の出演者で、テノール歌手の大槻孝志さんにご紹介いただき、今回のプロダクションに飛び込んでくれた小野くん。「コンテンポラリー・パンク・オペラ」の制作に向けて、小野君が「オペラ」について考えていることを話してくれた。ドイツ語の歌、イタリア語でのレチタティーヴォ・セッコ、さらにレティタティーボ アッコンパニャート。それからリクエストに応えてフランス語と日本語での歌も。小野君は「ことば/歌詞」と「歌/音楽」を大事に歌い紡ぐ。そして、とっても実験マインド。ご紹介してくださった大槻さんにも本当に感謝であります。

後半は、昨日に引き続き、シーン1~3のデモ音楽を使ったワーク。シーン、といっても、--------で区切られた24のフラグメント/メモと言った方がいい。そして、誰が発話しているのかもわからない、時にはそのメモの意味をとることも困難なことばの羅列。耳慣れない言葉も多い。そのことばたちをどう音楽と共に発話していくか、というのがこのレジデンスの探しどころ。歌っていることが嘘にならないように、さらには演劇のレイヤーのどの部分をベースに構築していくのか。テキスト・シェアリング版とはもちろんまったく異なるアプローチが求められています。

この挑戦的な制作方法を支えてくれているのがドラマターグのニーナ・ケイン。昨日からのリハーサルの内容を引き継いで、必要な発音のレッスンと、戯曲についての話をしてくれる。星羅がつくってくれたベジスープを堪能したあと、ニーナの提案で公園へ。2日ぶりに太陽が出たので、今日は人がみんな外に出ている。家の左右のお隣さんも外のベンチに座ってお喋りしていたので、お話しできた。10日間もいるので、顔見知りになっていると、何かと心強い。向かう途中、後半のお稽古場のタウンホールへ。担当してくれているエボニーさんにも挨拶。タウンホールの入口には「Pay as you like」のレコードボックス。滝本さんが嬉しそうに物色。

公園でいくつかの子音の練習。t/dとか、k/gとか、th(語中・語末)/th(語頭)とか。日常会話とは違う舞台ならではの発音の仕方とか。せっかくの陽射しがあっという間に雲に隠れてしまったので、かつて水車のあった(今もディスプレイはしてある)カフェにいって、昨日の続きのテキストリーディング。午後5時過ぎには頭がパンクしそうになっていた。これぞ、缶詰。

ビールを買って家で1本飲んだあと、滝本さんと家から徒歩30秒のところにあるイタリアンレストランへ。入ってみたら中が広くて、想像以上にしっかりしたレストランでびっくり。味も良かった。ヘブデンブリッジは多分ご飯がとても美味しい。

その後、ニーナと3人でピクチャーハウス(映画館)へ。シネマ、の古い言い方。とてもレトロで落ち着く映画館で、映画が始まって10分で眠りに落ちた気がする。終わって家に帰っても眠気が収まらず。朝から活動してフルで動いている良さ。ということで、朝6時に起きてブログだん。

Day 07

羽田空港を発って1週間。濃い。最初の数日は移動とレジャーだったとはいえ、1週間動き続けていると少しずつ疲れも溜まってくる。とはいえ、ここから1週間はオフなしでリハーサル。体力とバランス。

今日もバーチクリフセンターのヨガルーム。まずは滝本直子のワークショップから。滝本さんとは2010年の『クレンズド』からの付き合いで、もうすぐ10年か。『クレンズド』では読み書きのできない少年ロビンの役を演じてもらいました。サラ・ケインの“Cleansed”はアウシュヴィッツへ応答した劇。応答、というのは、アウシュヴィッツの設定をしているわけではなくて、そこで起こった人間の状態、究極的な状況で、人間が人間を愛し続けることができるのかを描いた劇。2012年版では、ロビンを収容所で生まれ、少年として育てられた女の子として描いた。

2018年ニーナ・ケインが日本に来日し、横浜の若葉町ウォーフでのレジデンスの最後に、『4.48 PSYCHOSIS』を滝本さんがひとりで読み続けるテキスト・シェアリング版ができあがった。ロビンを演じていた滝本さんが、ことばと格闘する70分。役者さんの中に役の経験が澱のようにたまっていき、それがある長い時間の経過のあとに出てくる不思議さがあった。

今日の滝本さんのワークショップは、いくつかのゲーム。頭も体もリラックスして、笑が通り抜ける。

後半は、テキストと音楽を使ったワーク。サラ・ケインの戯曲をベースにしたコントも。Dr. This, Dr. That, Dr. Whatsitの3人コント。良かったなぁ。サラ・ケインはコメディのセンスがとてもある劇作家。それが、今回の鈴木光介の作曲の中で出てくるはず。

リハーサルの後、丘を下って列車の駅へ。バナナケーキをつかみ、リーズ行の列車に飛び乗る。ニーナが長年活動の拠点にしていたリーズ・アート・ギャラリーへ。たかが4日だけど、都会の感じにみんなびっくりする。ヘブデンブリッジへの愛着。

ヘブデンブリッジは繊維産業が衰退したあと、1970年代にヒッピーたちが移り住んだ町。1979年にサッチャー政権が誕生して多くの失業者が生まれるその時代と時を同じにしている。昨年12月に長島確さんをゲストにお迎えしてトークしたときには、このサッチャー政権の中で1980年代になると多くのUKパンクバンドが誕生していく背景をお話しされていた。鬱屈した世の中。その流れは、今のBrexitまでつながっている。

ニーナの案内でリーズ・アート・ギャラリーを堪能し、お茶して、本屋さんへ。その後、せっかくなので、何かヘブデンブリッジでは食べられないものをいただこうということで、中華料理屋・家へ。とっても美味しくてびっくりした。

本屋さんで買ったSharlock Homesのカードゲームを読み解きながら列車で帰宅。ヘブデンブリッジは怖いくらいに真っ暗で、しかも寒い。

Day 08

ヘブデンブリッジ4日目の朝。またも雨。丘の中腹のバーチクリフセンターへ。

今日は、このプロダクションの作曲家・音楽家の鈴木光介のワークショップ。まず、声をデッサンするところから始まった。それぞれの純粋な「声」を聴く時間。それから少しずつ倍音にイメージを拡げっていって最後はホーメイ。できるようになるかもしれない。小野さんがホーメイの習得もさすがに早い。

その後、昨日の宿題を発表。昨日の宿題は「1分間歌う人」。もちろん、光介さんの作曲をベースに。星羅の歌声が昨日より格段にパワフルになる。ここ、ここを拡張!とばかりに星羅には光介とニーナとの作業をお願いし、小野君と滝本さんにテキストを読む作業をお願いする。と、ここまで来て、のこり5日間のレジデンスの目標値が定まる。パンク。

リハーサル終わって、シェフ・小野の美味しいランチ↓↓↓

3時、ニーナの英語レッスンの時間。発音の練習はもちろん。あらためてニーナ・ケインと英語のテキストに向かいあえる機会なので、質問三昧。光介さんとこの間2人で英語のテキストの読書会してきた甲斐あって、前回の読み込みにさらに深みを増した質問を投げかけるので、ニーナのほうの応答もだんだん複雑になってきている。これまでの作業の先に、まだまだ議論しなければいけないことのあるサラ・ケインの戯曲。

長いセッションを終えて、さらにニーナと話込み(本当に英語の個人レッスンだわ)、疲れ切って夕飯タイム。光介さんが夕飯を作ってくれた! 光介さんとは何度かレジデンスを共にしているけれど、光介飯食べるのは初めてかも~~~と堪能。ワインを飲みながらここまでの作業を振り返り、この先の方針を相談する。

今回の作品制作はとっても難しい。だから、楽しい。作曲の光介さんとは、2010年のベケット上演『プレイ』が最初。音楽家を壺に入れて台詞を喋らせるだけだったのだから、なんとも恐れ知らず。当時、時々自動の公演で「スリーコーチャンズ」を見たのがそのきっかけ。光介さんの音楽は、ことばをとても大事にしているし、そしてとても遊んでくれる。ある意味ではサラ・ケインの言語感とはまったく違う。それがとても大事。

光介さんとは「いつかオペラを!」と約束して長いし、その頃はオペラとは何だなんてことはまったく考えてなくて。でも、2017年絶対的の2週間レジデンスが終わったあと、次に光介さんと何をやったら楽しいか、それを想像したらやっぱりオペラしかなかった。レジデンス最終日、横浜を後にする時に「いよいよ、サラ・ケインでオペラやりたいです。」「やりましょう」と握手したのを覚えている。この作品は、この10年間の私たちの協働の爆発。

22時、PICTURE HOUSEに「ライオンキング超実写版」を見に行った滝本さんと星羅も帰ってきて、リビングでお酒がなくなるまで宴。写真は、昨日、リーズ・アート・ギャラリーにて。

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